2020年?2021年?にMSXパソコン用の新作ゲームソフトをリリースするにあたり、ゲームのセーブデータをどこに保存するかのアンケートがtwitter上で行われていました。その反応が興味深かったので、まとめてみました。
なんでそんなことで悩むんだよ(普通クラウドでオートセーブだろう)と最近の若者は思うでしょう。が、1983年に発売されたMSXを今でも利用する人だからこその悩みがそこにありました。
開発者の思い
アンケート
ゲームソフトの前提条件
- 対応するハードはMSX2以上 → RAM64KB以上の環境が保証されていることが前提(MSX1は考慮しない)
- 提供するメディアはフロッピーディスク → FDD搭載機=DISK ROM BIOS(MSX-DOS・MSX Disk BASIC 含)の保有機種で動作する前提(FDDを搭載しない機種は考慮しない)
- 2020年現在フロッピーディスクは生産が終了した → もはや貴重品と化したストレージメディアです。全世界的に品不足の状態
アンケートの結果
なんと、FMPACへのセーブデータ保存を望む人が一番多い結果に!
開発者の決断
主な手法とアピールポイント
製品のフロッピーディスクで保存
昔はわだかまりなく製品のフロッピーディスクにゲームデータを保存したものでした。データ管理が一番簡単です。後述の「バックアップしたのち製品ディスクで保存」も含めると、この意見が多数でした。
派生:バックアップしたのち製品のフロッピーディスクで保存
ヴィンテージ品と化したMSXではソフトウェアに「コレクション」「アーカイブ」の意味が込められるようになり、製品データを極力改変しない(製品にセーブデータを書き込まない)ことを望む人が現れ始めました。
バックアップが取りやすい=複製しやすい。つまり、製品をリリースしてもコピーされ、インターネットに流出しやすくなります。開発側がそれを望まない・懸念を感じるのは至極当然のことです。
自分で用意したブランクディスク
新しいブランクディスクにセーブすると、製品自体にデータ改変は起きませんがディスクの交換作業が発生します。
MSXは基本的に1ドライブでの運用が前提なので、ディスクの交換作業回数は他の機種より多めです。これによって古くなったFDDで経年劣化による部材の故障や破損のリスクが発生します。
派生:ユーザーディスクを作成、ゲーム起動後はそのディスクで保存
製品とデータの分離を考慮した折衷案。ゲーム起動は製品ディスクで行い、以後ユーザーディスクでプレイしデータ保存する手法。ディスク交換は1回で済みます。
初回のディスク作成に時間を要するのがネック。ティル・ナ・ノーグより速いとは思うけど…
PAC(Pana Amusement Cartridge)/FMPAC
PACは松下電器が発売した汎用のバッテリーバックアップカートリッジで、FM音源付きのFMPACは当時のログイン誌(パソコン業界の雑誌)の売上トップ10にもランクインされるなど販売数が多かった製品です。
MSX・FANの投稿プログラム「LAST WAR」もPACに対応できる程度に、実装は難しくない様子。
ただ、PACのデータ管理は杜撰なイメージがあります。規格なんだけど自由、みたいな。セキュリティのセの字も無い。
PACをアクセスできるアプリはいくつか存在します。
- FSW倉庫(たろさん) http://sakuramail.net/fswold/tool_d.html
- なんでもSRAMセーバー(TINY野郎さん)http://www.tiny-yarou.com/kaizoumsx_ndsram.html
- DMシステム2(Gigamix) https://www.gigamix.jp/ds2/
拙作DMシステム2でもPACへのアクセス機能があります。
パスワード出力(ふっかつのじゅもんメソッド)
昔は苦行だった写経作業も、今はスマートフォンという便利なアイテムがあるので書き写しミスが解消されます!入力が面倒なだけ!
カセットテープ(データレコーダー)
カセットテープ自体はまだメディアとして現存していますが、CMTケーブルの所有者が今は少なめということが課題。また、turbo Rでは廃止された機能です(PCMのマイク入力はありますが…)。
カセットテープのピーガー音をスマートフォンで録音・再生するソリューションは存在します。MSX2CAS です。 play.google.com
QRコード
スマホの併用が前提なら、パスワードよりもQRコードのほうが出力できるデータ量は増えます。
MSX実機上でQRコードを生成するプログラムコードは、実在します。 gigamix.hatenablog.com
でも、QRで出力したゲームデータをどうやってゲーム本体に戻すのか。
複数対応・全対応
遊ぶ側からしてみれば、そりゃあできることなら複数に対応していただくのが有り難いのです。
開発側のやる気次第なところは、あります。
その他
コナミの10倍カートリッジで保存しよう案
新しいデバイスをつけちゃおう案
ダウンロード販売のみに割り切ろう案
反則技:RTCの未使用領域
ファイヤーホークはクロックICの未使用領域にセーブデータを書き込むようです。ダメ!ゼッタイ!
ぺんぎんくんwarsも、らしい。えっ、ぺんぎんくんwars2じゃなくて!?
こういうハードがあれば解決するのに…
ここから先は未来の話。フロッピーディスクでの供給には限界があることは皆が認識していて、ではこの先どうしよう、という。
ハードウェアを拡張するカートリッジ
PACの互換カートリッジ
実装されるのはROMだけどディスク駆動のように見えるソリューション
MSXなのでROMでのソフト供給に切り替えるのが今風であり、未来志向。そこで、フロッピーディスクでの動作環境をROM上でエミュレートすれば良いのでは?というアイデア。
ここは解説が必要です。
1990年代当時は全然気にしていませんでしたが、90年代当時フロッピーディスク供給のMSX用市販ソフトや同人ソフトが数多くリリースされたのは、当時のMSX市場はFDD搭載機種で占められており、それイコールMSXシステムのスロットにDISK ROM BIOSが接続されている状態、ゆえにMSX-DOSやDisk BASICが利用可能でソフト開発が容易だったことが挙げられます。
MSXではFDD非搭載機種へFDDを接続する際にはカートリッジで拡張していました。このカートリッジにはDISK ROM BIOSが含まれていました。
令和の時代に入るとフロッピーディスクの供給が止まりFDDの劣化が目立つ始めたため、ROMカートリッジがMSXのコンテンツ配信メディアとして改めて見直されてきました。海外ではROMカートリッジでの新作ソフトが相次いでいます。そうなると、初代MSX(MSX1)やFDD非搭載機も対応機種の視野に入ってきます。
似非RAMディスクの手法で「メガROMカートリッジなんだけど実態は外付けストレージ(似非ROMディスク)」というものを作ることは既に実現可能な技術なのですが、FDD非搭載機種(=DISK ROM BIOSを搭載しない機種)ではファイルをロードすることができません。ROMカートリッジ内にDISK ROM BIOSの働きをする機能を追加すればFDD非搭載機種でもファイルをロードできます。が、DISK ROM BIOSはメーカー各社の著作物であり、無断で転用できません。
そこで、NextorというMSX-DOS2上位互換の新しいOSが選択肢に入ります。
NextorはOSの起動ファイルはもとよりDISK ROM BIOSの代替品となるカーネルプログラムも無料で入手できます。しかし、Nextorは多機能ゆえにマッパーRAM 128KB以上のRAM容量を必要とします。(RAMを128KB以上搭載していればMSX1でも起動できるのが強みです)
Nextor上で起動する「メガROMカートリッジなんだけど実態は外付けストレージ」というものを作ると、128KB以上のマッパーRAM+Nextor+似非ROM(コンテンツストレージ)+ゲームセーブ用の書き換えできるストレージが必要となり、もはや本末転倒なレベルです。そういったカートリッジがもの凄く格安で開発できるようになったら採用を検討できるんでしょうけどね…。
Nextorは現実的ではないので、光栄のメガROMゲームのような「ROMの一部をディスクのファイルストレージっぽく振る舞うシステム」が開発されればROMカートリッジでもいけるかもしれないですね。例えば4000h以降にBASICの拡張命令を定義して、ファイルのロードは拡張BASIC(CALL LOADとかCALL RUNとか)だけで行うような…
BASICプログラムをROMイメージ化するソリューションは存在します。DISK2ROM です。 www.msx.org プログラム以外のコンテンツを付属できないっぽいんですよね。