風の噂で聞きました。FS-PW1はワープロパソコンFS-4600F相当のワープロソフト「MSXワープロⅢ」が搭載されているので、FS-4600Fに搭載されている「松下仕様12ドット漢字ROM」がFS-PW1にも載っているのではないか?と。
当方が分かる範囲で検証結果をまとめていますが、現在有力な説は、FS-PW1には松下仕様の12ドット漢字ROMが搭載されていない です。
「松下仕様12ドット漢字ROM」については、こちらの記事で解説しています。
- FS-PW1に搭載されている機能
- FS-PW1を分解して解析
- 松下仕様12ドット漢字ROMがFS-PW1には搭載されていない根拠
- なぜFS-PW1を解析することになったのか
- 本体を入手してROMを解析する以前の根拠
- 関連情報へのリンク
FS-PW1に搭載されている機能
FS-PW1を分解して解析
「似非RAMDisk MAXIMUM」「漢字FlashROM」等のMSX用同人ハードで知られるにがHPさんから寄せられた見解も交えて解説します。
FS-PW1に実装されているROMを全部引っこ抜いて内容を検証した内訳は次の通りです。
IC名 | 容量 | 型番 | 用途 |
---|---|---|---|
IC102 | 128kB | DA531P66616-0 | MSX標準 漢字ROM 16×16px |
IC109 | 256kB | D23C2000C-183 | 熟語辞書 |
IC107 | 128kB | 831000-20 340 8A | 熟語辞書 |
IC115 | 128kB | DA1024D0359R 8C2 | A1 ワープロソフト |
IC114 | 128kB | DA1024D0358R 8D3 | A4 ワープロ(16kB) + 名刺(48kB) + 連文節(32kB) + 単漢字(32kB) |
ワープロソフト
FS-PW1のワープロソフトは、サブ基板のメーカー不明のIC114「DA1024D0358R」とIC115「DA1024D0359R(1Mbit ROM)」に入っています。ROMが番号が通し番号になっていますので、組で2Mbit ROMとして使う前提と思われます。
ワープロソフトはIC115がROMヘッダ付きで、ワープロソフトのメニュー等の文字列が確認できました。IC114がヘッダなしですのでIC115側が前半バンク、IC114が後半バンクと思われます。IC114の内容を見ると最後の32kBは単漢字変換ソフトであることがヘッダから読み取れました。よってこれらはフォントROMでないことは確定です。
熟語辞書
FS-PW1の熟語辞書はIC109が前半256kBで「合」~「習志野市」の熟語が入り、IC107が後半128kBで「ならず者」~「腕白」まで入っていました。システムからは384kB連続したバンクとして見えるのだろうと思います。
384kBytesの熟語ROMを入れるのに当時は512kBのROMが高価であったため、256kB+128kBで組み合わせるのがコストや実装面積で合理的という判断があったのかもしれません。
MSX標準 漢字ROM
FS-PW1のMSX標準漢字ROMは「DA531P6616」と刻印されているもの(ROMの型番としては「TC531000AP-6616」=東芝製1MbitのマスクROM)だそうで、1Mbitの容量では第一水準しか入らないようです。
28pパッケージのマスクROMには最大1Mbitしか入らず、2Mbit以上のものは必ず32p以上のパッケージになります。FS-PW1にはNECの40p 4Mbit ROMのuPD23C2000Cが使われていますが、この時代には2MbitのROMとして40pの8/16bit共用のものが利用しやすかった(32pパッケージはなかったのかも)のだろうと思います。
漢字ROMは標準のものも松下12ドットのものも、いずれもハードウェア的にはアドレス線の下位5bitにカウンタを接続する必要があり、プログラム用のROMとは独立してアドレス線が制御されています。このカウンタは双方の漢字ROMシステムを同時に使わない前提で共用にできますから、同じゲートアレイで制御するのが合理的で、FS-4600Fでは通常の漢字ROMと12ドットROMが隣り合って実装されていることから考えて、そのように制御されている可能性があります。
ちなみに「DA」の型番が付いたICは松下がICに付ける部品番号で、他のROMやゲートアレイにも付いているものがあるそうです(JIS第一水準漢字ROMはFS-A1F、FS-4600F、FS-PW1の3機種においていずれも「DA531P6616」が使われています)。松下のサービスマニュアルに品番として掲載されているものなので、DA品番が共通しているものはROM内容も共通であると推測されます。
印刷用のフォントROM
印刷用フォントROMはカートリッジには含まれませんが、これはプリンタ側の画像で512kBのマスクROMを確認しています。
松下仕様12ドット漢字ROMがFS-PW1には搭載されていない根拠
ROM内容を精査しても漢字ROMは1Mbitの第一水準16ドットフォントしか搭載されておらず、取説の容量表記は誤記であることが裏付けられました。それ以外は説明書の容量通りと考えて矛盾はありません。
マニュアルは誤植でした
FS-PW1のマニュアルには「表示用漢字ROM」の容量が256KBytesと書いてあります。これが第二水準まで対応する「MSX標準の16px漢字ROM」だけであればその容量通りとなりますが、FS-PW1の漢字ROMは東芝製1MbitのマスクROMだそうで、1Mbitの容量では第一水準の内容しか入らないためにこれは誤報、と判断しました。
なぜFS-PW1を解析することになったのか
松下電器(パナソニック)はMSXのハードウェアでワープロを実現するためのソリューションを多数展開していました。その折、低解像度であったMSXの画面に多くの文字を増やすために考案された(と推測される)「松下仕様12ドット漢字ROM」という12×12pxのスモールフォントが内的(松下以外のメーカーには非公開)に活用されていました。
ところがこのスモールフォントROMはMSXの拡張I/Oについて公表されていた仕様から外れた松下独自の設計となっており、接続する他のハードウェアによってはI/Oの衝突が発生して誤動作や故障を起こす 危険性が2021年の今頃になって発覚しました。
にがHPさんの同人ハードウェア「漢字FlashROM」が一部環境で不具合が発生する原因がこの松下仕様12ドット漢字ROMである疑いがあり、ROMの仕様を再確認する必要がありました。松下仕様12ドット漢字ROMを本体に内蔵しているMSX2の実機「FS-4600F」のワープロソフトの相当品がFS-PW1にも搭載されていたため、フォントROMの存在の可能性が指摘されていました。
本体を入手してROMを解析する以前の根拠
本体を解析する前までの根拠として、以下の検証結果が挙げられました。
- FS-PW1では、拡張I/Oポート40hに FEh を書いても 8 を書いても、他の拡張I/Oポートに動きが見られない。他機種では何らかの拡張I/Oポートに 0 が返ります。
- 他機種では適正な手順で漢字ROMからデータを取り出すことが可能になるプログラムが、FS-PW1ではデータを取り出せない(無効を意味するFFh=255が返る)。
- 他の機種で採用されている松下仕様のROMと思われる「354 BA」のICはFS-PW1には存在しませんし、機能が統合されたようなROMは存在しないようにも見えます。
- FS-PW1の基板に実装されているICの部品を精査しても、松下仕様のフォントを搭載できる余地が考えられない。
拡張I/Oから松下仕様12ドット漢字ROMをイネーブルできない
他の3機種(FS-4600F、FS-A1FM、FS-CM1)ではイネーブルできる手順で、FS-PW1ではイネーブルできません。
FS-PW1は他機種とは違うイネーブル手順が存在するのかもしれませんが、けっきょくその方法が分かりません。この機種だけ特別な手順なのでしょうか?そんなの効率が悪くなりませんか。可能性は低いと思います。
松下仕様12ドット漢字ROMのフォントビュアーが利用できない
フォントがイネーブルできないんだから漢字フォントも表示できないのは当たり前。